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東京高等裁判所 昭和25年(う)1199号 判決 1950年12月01日

被告人

岩本乙業こと

李乙業

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人福田力之助の控訴趣意第一点について。

所論原審第二回公判調書によると、原審は当初刑事訴訟法第二百九十一条、刑事訴訟規則第百九十七条第一項の手続を履践し、また被告人も公訴事実を全部認めたのであるが、原審裁判官は被告人が日本語によく通じないものと認め次回公判期日には通訳を選任した上審理する旨を告げて閉廷したことは明白である。従つてその次回公判期日には所論のように通訳を通じ更に改めて右各法条所定の手続を履践することは最も望ましい事であり、また妥当であることは論を俟たない。しかるにその次回公判期日においては所論のように起訴状の朗読及び所謂黙秘権の告知等が為されなかつたことは原審第三回公判調書に徴しこれを推知するに難くない。しかし右公判調書によると原審は更に被告人に対し通訳を通じて公訴事実に対する陳述を求めたところ、被告人は任意に該事実を認め、殊に弁護人に対し本件被告事件について陳述することがあるかどうかを尋ねたところ同弁護人は何等陳述すること無き旨申立て、被告人も亦毫も異議を申立てることなく審理が続行完結されたことが明白であるから、前叙のような瑕瑾は茲に全く治癒されたものと解するを相当とすべく、而してこの事は、新刑事訴訟法上起訴状の朗読即ち被告事件の欠如乃至不完全について旧刑事訴訟法第四百十条第十二号所定のように、所謂絶対的上訴の理由ある場合としなかつた趣旨に徴しても了解せらるべく、これ蓋し新法の下においては起訴状の謄本を遅滞なく被告人に送達すべきことを命じ被告人をして公判開廷前予じめ攻撃防禦方法を講ぜしめもつてその権利保護を遺憾なからしめたからである。従つて所論前叙のように訴訟手続の瑕瑾あることを前提とする主張は結局採用するに由なきものとする。論旨は理由がない。

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